平成13年7月4日
厚生労働大臣 坂口 力 殿
「脳死」臓器移植による人権侵害監視委員会・東京
医療を考える会 交通事故遺族の会
人類愛善会・生命倫理問題対策会議
日本消費者連盟
「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会
「脳死」臓器移植による人権侵害監視委員会・関西
薬害・医療被害をなくすための厚生省交渉実行委員会
「脳死」・臓器移植を考える委員会
平成13年7月1日に実施された、臓器の移植に関する法律(以下、移植法)のもとで行われた、臓器の提供、およびあっせんについて、社団法人 日本臓器移植ネットワーク(以下、臓器移植ネットワーク)の行為は、移植法第二条第4項、第一二条第2項二号、および法第一三条に違反しているため、速やかな調査の上、法第一七条に基づく第一二条第1項の許可の取り消しを求める。
理由
1.提供者の意思で臓器が親族にのみ提供されたことは、公平・公正な医療を求める臓器移植法に違反している
本来、移植法は、重篤な病に苦しむ人々が、その社会的地位、身分等にかかわらず、公平・公正な医療を受けられることを期待して作られたものであり、今回のように「提供者の意思」で臓器の配分先が決まるのであれば、公平・公正な臓器の提供と、移植術の機会の公平を求めるこの法律の理念はないがしろとなる。「特例」などは決して容認できるものではない。
今回、親族間で移植が行われたということは、ドナー・レシピエントの情報が相互に提供されたことになる。匿名性の原則は、立法過程での議論、諸外国の経験からうたわれたものであることを考えれば、単なるルール違反ということではなく、それまでの過程を反故にする行為だと考える。また、法一三条にも秘密保持義務がうたわれており、法律に違反している。しかも、この「意思」の表明は、レシピエントの情報を知ることを前提とした一方的なものであり、そもそも無効とすべきである。
報道によれば、「本人の意思」は、書面などにかかれたものではなく、複数の家族の話によるということである。そもそも、こうした「意思」が認められるべきでないことは前述のとおりだが、さらに、そのことが何の具体的な裏づけもなく行われたのであれば、法による許可を受けている臓器移植ネットワークはもちろんのこと、その行為を了解した厚生労働省の責任は重大で、明らかな違法行為を犯したこととなり、由々しき問題である。どのような形で「意思」を確認したのかお示しいただきたい。 また、このようなことが認められれば、待機患者の親族にとっても大きな精神的圧力となりかねない。
7月1日付で厚生労働省に提出された報告書には、その経過の中で、「腎臓移植の第二候補者は、医学的な理由により検討中。」とある。同じ報告書によれば、この時点で、すでに第一候補者、すなわち、一人の親族への移植は決定しており、すでに、「意思」の確認は終わっていることから、この記載には虚偽、もしくは大きな誤りがある。厚生労働省と相談の上決定したのであればなおのこと、なぜ、その旨記載されていないのか。また、このような虚偽、ないしは誤りに基づく報告書が提出されたことは臓器移植法の基本的理念である法第二条第4項にも反する行為である。
5.もはや臓器移植ネットワークの存在意義そのものがなくなった
法で認められた唯一の移植あっせん業者である臓器移植ネットワークが法を軽視し、法に反する行為を行うのならば、これを放置することは法そのものを否定することである。厚生労働省は、自らも許可を出した今回の事例について十分に反省をし、検証をすべきである。そして、すみやかに、法第一七条による許可の取り消しを行うべきである。
以上
解説
今回、上記のような申し入れをした理由には二つの大きな背景がある。一つには、この申し入れにあるように、私たちは親族間の移植は著しく公平性を欠くと認識しているが、厚生労働省、移植ネットワークは問題がなかったと主張しながら、そのことを証明できる情報を一切公表しないため、情報公開を促すことである。
もう一つは、この間、移植ネットワークについては、いわゆる「トンネル寄付」などの不透明な金銭の流れが指摘され、それに対する厚生労働省の立ち入り検査が行われるなど、公益法人としての資格が疑われていることがある。
こうしたことから、今回は移植ネットワークの責任についてのみ追及したが、現在、情報公開請求などを利用して、厚生労働省の問題点についても情報を収集しているところである。
1.提供者の意思で臓器が親族にのみ提供されたことは、公平・公正な医療を求める臓器移植法に違反している
まず、注意していただきたいのは、法律でいう「提供の意思」とは、「臓器を提供したい」ということをさすのみであり、「〜に対して提供したい」という意思ではない。
また、親族ならば優先されてもよいとする根拠として、厚生労働省は移植法制定時の議論を根拠としている(第140回通常国会厚生委員会8号)。すなわち、親族優先は立法主旨に基づくものであるというのだ。しかし、第140回通常国会厚生委員会16号では逆に「これは本人に提供の意思がない」という議論もされている。
前者が中山案の提出者であるため(現在の移植法は修正中山案といわれる)、そちらを尊重するとしても、行政が立法主旨を尊重するということは、具体的に規則や通達を作成し、それに基づいて行動するという意味である。今回のように、根拠となる法律・規則等なしに行政が判断したことは、明らかな脱法行為である。脱法行為を行ってから、特例を作成しようとすることは、立法府を軽んじた行為といわざるを得ない。
また、厚生労働省は旧角腎法下で行われていたことから問題ないともいうが(実際には、現在も、死体腎については親族への優先提供が行われている)、「行われていた(いる)」ということと、それにちゃんとした根拠・裏づけ、および正当性があるかどうかは峻別しなければならない(ハンセン病の隔離政策など典型であろう)。
2.今回の行為は匿名性の原則を侵すものである
これについては理由に書いたとおりである。
3.今回の行為は、家族の忖度を認めた違法行為である
厚生省保健医療局臓器移植法研究会が監修した「逐条解説 臓器移植法」(中央法規)には「臓器提供の意思表示、承諾」の項で、意思表示の条件を付した場合について「重要なことは、その条件が本人としてどれほど明確なものかを生前に確定しておくことであり」(p.43
l.12)とあるように、仮に立法主旨に基づいたと強弁しても、少なくともこの事例に関しては、明らかな規則違反を犯している。
4.臓器移植ネットワークの報告書には虚偽の記載がある
実際の文書を掲載しておく。情報公開法によって、行政文書は手に入りやすくなっているので、ぜひ活用していただきたい。
5.もはや臓器移植ネットワークの存在意義そのものがなくなった
理由に述べたとおりだが、この申し入れ後、さらに、レシピエント登録が臨床的脳死診断後に行われたことが報道されている。このような形で運用が行われるのであれば、あえて特定公益増進法人(公益の増進に著しく寄与する法人)にまで認定し、さらに運営費の約半分を補助する事業として保護する必要はない。